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【連載<カイトの物語>】story10~勇気~

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今日のコラムは連載企画、『カイトの物語』第10話です。重心児のパパさんである、小菊さんという方からいただいた文章を掲載しています。

あるとき、『息子からこんな目線で世界が見えていたとしたら』・・・と目線を変えてみたことをきっかけに、息子さんが何を感じて何を思って、何を伝えたいかがわかるようになってきたという小菊さん。

その思い、息子さんから感じ取った思いを発信していきたいとのことで、絵本屋だっこのコラムで<連載企画>として発信をしていってもらうことにしました。

初回の記事にて、小菊さんから発信への想いを伝えていただいています。まだ見ていない方は、以下のリンクからぜひお読みください。

<カイトの物語>第1話はこちら>>

<カイトの物語>をまとめて読みたい方はこちら>>


【連載<カイトの物語>】story10~勇気~

目の前にたくさんの星たちが

まるで瞬きしてるように

パッチん パッチん

パッパッパ
ポヨーン ポヨーン輝いたり
影になったりする僕も
とうちゃんも
よぞらをぽや〜ん
ぽっか〜ん     って見つめてる父ちゃんがぼくに
ある男の子の話をしてくれたすぐ後に2人でこうして夜のお空を 眺めてたんだ

なんにも考えずに

なんにも話すことなく
そして 父ちゃんは 僕の左の手を
ずっと握って
そして僕のお膝で………………

と〜んと〜〜〜んっ

ってする

とっても  優しい  リズムで

父ちゃんのお話は
小学四年生の 勇気くん(仮名)という男の子が出てくるお話しなんだ

と〜ん と〜〜〜んっ
と〜ん と〜〜〜んっ

てしながら聞かせてくれるんだよ

父ちゃんのお友達の 平田さん家に産まれた
勇気くんが

産まれて数か月の頃…………

もうそろそろ言葉が出てきてもおかしくない時期かな〜っ

て勇気くんのお父さんとお母さんは毎日毎日楽しみにしてたんだ

すると、ある日

勇気くんが
『ウ〜ッ ウ〜ッ』
て言ったかと思うと
お口をとんがらせたり、大きく開けたりしたんだ

『おっ!! 何か言おうとしてる!!』

『頑張れ!!』
『なに!!』
『なに??』
『なに? なに?』
『頑張れー!!!!』

すると勇気くんは
パタっと 何も言わなくなって

目を

クリクリ〜ってしたんだ

そしたら
ギュッッッッて
お口を閉じたのさ

そしたらさ
それから、ウ〜ッていうのも…………
音を立てることもしなくなって
それっきり なーにも言わなくなったんだよ

何日も何か月も そんな事が続いてね

『あの ウ〜ッ は
なんだったんだろうね
もしかしたらこの子 話ができないっていうか
脳に問題があるのかもしれない』

『なにがどうなってるんだろう』

夫婦で暗い暗い気持ちになって
何年も何年も

勇気くんの口から言葉が出るのを待ち続けたんだ

『何か言葉が出てくるはず』

『きっと!』
『そして』
『必ず!!』

勇気くんが産まれて、1年、2年、3年

そして4年、

夫婦はあの日のウーッウーッっていう
言葉みたいな音を初めて聴いた時の気持ちも、
どんな感じでワクワクしたのかも、
すっかり忘れてしまうほど、心が疲れてしまったんだ

大人は、心が疲れすぎると、本当に楽しかった時のことを
思い出せなくなるんだ

なんて言ったらいいんだろう

きっとその時の

幸せな感覚を忘れちゃうんだ
つらくて悲しいことが、勝手に積もり積もっていくと
楽しいことを考えて忘れたり
希望を持って頑張ってみたり
そうするのも 疲れちゃって
うまくできなくなっちゃってさ

そんなある日
勇気くんの父さんが、突然大きな声で言った

『仕方ない!!』

『これは仕方ない!!』
『色々あるけど、勇気は元気だけはいいし!!』
『それだけでいい!!!』
そうして、勇気くんの頭を
手のひらで
ガシャガシャガシャ
って 髪の毛がグシャグシャになるまで撫でて

『あ〜〜あっ!!!』
『よっこらしょ〜!! しょ!!!』

って言いながら
ゴロ〜んと横になって

テレビを見出したのさ

諦めたってよりは なんとかやり過ごして
現実と気持ちの折り合いをつけようとしてたんだよきっと

そうして勇気くんは 言葉は話せないまま

お兄ちゃんになっていって
養護学校に行くことになったんだ

毎日バスが迎えにやってきて 勇気くんはそのバスに乗って学校に行くんだ
もちろん学校では皆んな障害があるんだけど勇気くんは楽しそうにしてるというより

なんとなーくかよってる感じだった

勇気くんが4年生になったある日の出来事

【それは 日曜日家族でドライブしてた時に起こった】

勇気くんとその家族を乗せた車は道に迷っちゃって
住宅街を通り抜けて国道に出るところだったんだ

『この道どっちだったっけ?』

『さあ しょっちゅう通るわけじゃないものねー』
『確かになーー 』
『こっちかな? いや! こっちかな?』

夫婦で話してたら

『右!!!』

『………………』

『みぎ!!!!!』

『おい、勇気がなんか言いよる』

『どしたの? 勇気』

『右!!!!』

『みぎ! みぎ!』

『右って……………………?』
『はーーーーーっ??????』
『みぎ??』

『右って 勇気が喋った』
『と、と、とりあえず』
『み   ぎ    ?』

お父さんは急いでハンドルを切った

勇気くん達を乗せた 丸っこい青いバンは
勇気達が 首を傾げた時のように
丸っこい車体を傾けて ヒョコヒョコしながら
右に曲がった

すると

『左!!!』

『………………』『おい!!』

『やっぱり 喋っとる!!』
『勇気!!!』

『おい!!』『やだー!!』

『うそーーーっ!!』

『お父さん!!』『ひ だ り』

『ひだり!!!』『えーーー??』

『なんで? なんで?』
『おい!おい!おい!』

丸っこい青いバンの中は もうヒッチャカメッチャカ

『まっすぐ』

『右』
『左』

『まっすぐ』

丸っこい青いバンは そのたびに

コロコロ 傾いては 走り 傾いては 走り
とうとう 目的地に

ちゃ〜んと着いちゃったんだよ

勇気くんたちは 笑うやら 眉をしかめるやら

顔の表情も ヒッチャカメッチャカで
何をしにきたのか どこに行くのかなんて
どうでもよくなっちゃって
そのまま お家に帰っちゃったんだよな

お父さんは ずっと

『おい!おい!おい!』
お母さんは ずっと
『やだ! なに?』

そういうばっかりで ちっとも会話にならない

『あか』

『あなら』
『しょっしょっしょっ』
『どどど』

『みじゅ』

勇気くんが出す音は 言葉というより

何やら不思議な感じの発音ばかり

でも、次から次へと 何百っていう言葉を

どんどんどんどん 口が吐き出すんだ

お父さん お母さんが話しかける言葉なんて

聴いてやしない

勝手に ジャンジャン言葉が出ちゃう

1番凄いのは 大人も忘れてる道順を全部
勇気くんが言えちゃうってこと

勇気くんの お父さん お母さんも

何がどうなってるのか さっぱりわからなくて

理解するのに 時間がかかっちゃうこんなことって本当にあるの?

って思うだろうけど 本当にあるんだ

ここからがもっと凄いんだよ

とても会話にならない 言葉の連チャンが

何千 何万 って出てくるんだ

最初は 会話をするというより

ひたすら 単語を勝手に並べてる感じでさ話しかけられたら とりあえず何か

単語が出るって感じ

『何してるの? 勇気ー』

『空!!』
『足!!』
『リンゴ』

こんな感じでさ 会話になんかなりゃしない

それがさ だんだん こうなっちゃうんだ

『おはよう  勇気』

『目 かゆい』

『あら!! 会話になった! 凄いね勇気』

そして普通に会話ができるようになるのに、何年もかからなかったし

今の勇気くんをみたら
勇気くんが小学校4年生まで全く言葉が出なかった子だったなんて
人は絶対に信じないさ

勇気くんは発達障害はあるものの、言葉は普通に出るし

発音だって ちゃんとしてるし 会話もできる

なんてったって今では

誰も言わなくても

『右!』
『もうちょっと行ったら左!』
『ずっとまっすぐ!』
『あっ!すぎた!』
『おっとう!すぎた!』

道案内はバッチリさ

勇気くんのお父さんとお母さんは
一つだけ不思議なことがあってさ

『おい! こんな言葉誰が話した』

『知らないわよ! 私達の言い方じゃないような、、』

『えーーーーー?!』

『この子、何歳から言葉覚えたの?』
『やばいな!! こわーーっ!!』
『小さい時からズーーっと言葉を全部記憶してた???』
『えーーーーっ!!』
『うそーーーっ!!』

そうなんだなーー
ちゃーんと記憶してたんだ勇気くんは

だ か ら

悪口だって
大人が恥ずかしくなるような言葉だって
どんどん口から出ちゃう

今なんか

大人の人達と一緒に船で遊んだり
釣りをしたり 立派な男の子なんだ

父ちゃんは僕にね

いつもいつも 勇気くんの話を
聞かせてくれる

父ちゃんは

話し終えると
こういうんだ

『カイト』

『大丈夫』

『なーっ』

『大丈夫だぞー』

遠くを見ながら

とってもしずかにそういうのさ

星達が

パッチんパッチん

パッパッパ僕のおててを

父ちゃんのてが

と〜ん と〜〜〜んっ

と〜ん と〜〜〜んっ

とっても優しいリズムで……………………

 

つづく

この記事を書いた人

小菊

昭和44年生まれ54歳。妻は昭和63年生まれの35歳。重心児の息子は平成27年生まれの8歳(小3)。息子は妻の連れ子で、息子が生後半年の頃に再婚し親子になる。息子の傷病名は、ウエスト症候群、重度発達障害、自閉症。3年前より、息子は入居施設で暮らす。コラムでは、「息子はきっと、こんなことを考えているんじゃないか」と感じてきた内容を、息子の視点からのストーリーとして掲載。


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