今日のコラムは連載企画、『カイトの物語』第3話です。重心児のパパさんである、小菊さんという方からいただいた文章を掲載しています。
あるとき、『息子からこんな目線で世界が見えていたとしたら』・・・と目線を変えてみたことをきっかけに、息子さんが何を感じて何を思って、何を伝えたいかがわかるようになってきたという小菊さん。
その思い、息子さんから感じ取った思いを発信していきたいとのことで、絵本屋だっこのコラムで<連載企画>として発信をしていってもらうことにしました。
初回の記事にて、小菊さんから発信への想いを伝えていただいています。まだ見ていない方は、以下のリンクからぜひお読みください。
【連載<カイトの物語>】story3~父ちゃんどこいくの?~
……僕が1才頃の話……
バサッ!!
ボフッ!!
今のはなに?
僕の小さな体が宙に浮いた!!!
僕投げられたの?
怖いよ!!
何があったの?
父ちゃんが僕をフワフワの羽毛布団の上に投げたんだ。
なんでそんなことするの? 父ちゃん、、、
仰向けのまま投げられた僕は、父ちゃんを見ながら 怖いよ〜父ちゃんっ! て言えなかった。
言葉が出ない
声も出ない
僕は笑う時と泣く時しかうまく声が出ない、、
父ちゃん、、、
僕は神様と契約して、人に大切なものをたくさん与える不思議な力を持つ代わりに、少し不自由な体になってる。
テンカン発作で頭の中がウニュウニュして痛くて怖くて泣いちゃうんだ。
たくさん発作が出るんだけど、神様が言葉をくれなかったから、父ちゃんたちに伝えれなくて、不安で泣いちゃう。何度も何度も繰り返し発作がくるから、たくさん泣く。
病気の発作の時はワケがわからなくなって、とにかく頭の中の【変なヤツ】を、どっか行っちゃえって泣きまくるしかなかったんだ。
僕はフワフワの布団の上に突然投げられて怖かったけど、なんだか楽しい遊びのような感じがして面白くなっちゃった。
なんでこんな遊びが始まったのかよくわからないけど
まぁいいや!! フワフワして面白いよ父ちゃん。
……当時の父親の本心……
【嫌になって息子を布団の上に投げ捨てたのだ。】
息子が泣き出すのは昼夜問わず、一度泣き出すと、とにかく止まらない。
泣いた理由がまったくわからず、泣き止むタイミングも変だし、よく観察したらどこか普通の子とは違う。
一言で表せば、泣き方が異常と言えた。
妻は息子に一日中付き添って疲れ果ててる。私は自分の人生に一体何が起きているのか、把握することもできないもどかしさと、先が見えない不安と、接すれば接するほど、息子が普通ではないと感じ、一件そうとは思えないほど、健常児な素振りをする息子を目の前にして体力的にも精神的にも疲れ果てた。
家の中、その空間さえもが重苦しい気がしていた。
息子は、どこか異常があるであろうことを思いながら、自分の見当違いかもしれないという感情が行ったり来たりする。
異常があるとしたら、、、、
救えない病気だったら、、、
治療困難な病だったら、、、
この子はおそらく普通ではない。
病気だったら、、、
幾度も思考を支配してくるそうした可能性に、
【嫌になって投げ捨てたのだ】
赤子の子育てと同時に将来への不安、卑怯な自分を思いながら、ほっとけるはずがないという気持ちが目まぐるしく交差して、朝から晩まで付きまとった。
まるで自分が2人いるかのようだった。
息子の身体について真実を早く知りたかった。
『逃げ出すのは早い方がいい。結婚をなかったことにしてもらうんだ』
そんな考えに支配されそうになりながらも、
「とにかく早期発見のためにカイトを検査してもらおう」
と、妻に執拗に迫った。
「異常を早く見つけてやれば、治るかもしれない」
うわべを取り繕って、私はそういう言い回しを繰り返した。
早く逃げだしたいという気持ちが優先してただけなのに、もっともらしく何度も勧めた。
初産で比べる対象を持たない妻は、当然納得がいかない。
「どうみても普通でしかないのに何故?」
「私は異常があるなんて絶対認めない」
「認めたくない」
「なんで私の気持ちをわかってくれないの?」
素直に検査に応じてくれない妻のことが腹立たしいと思い
口論で朝を迎え、罵り合って眠りにつく。
人間は疲れが極限に達すると、イライラしたり自信を失ったり疑り深くなったりして精神が安定しないものだ。
子どものことで喧嘩するのは珍しくないが、内容が私には重たすぎた。
お互いに疲弊しきった毎日だった。
もし息子に障害や病気があるとしたら、こんなやりとりが延々と続くんだ……と思うと、、、
気持ちがブレて胸の奥底をガタガタと揺さぶられるような毎日だった。
夫婦喧嘩がエスカレートすればするほど、自分に正当化する材料が増えていく。
血が繋がってない子を育てる覚悟はあるつもりだった。
だが、障害児を育てる覚悟ができていない。
訳のわからないヘリクツばかりが頭ををめぐる。
その反面という言い方が正しいかどうかわからないが、
俺の息子だ!!!
と世間に胸を張りたい気持ちがあった。
後ろめたい気持ちの裏には自分がこんな小さな子1人、 幸せにできないはずはないという変な自信。
人生はやり直せるという、勝ち誇ったような気持ちが傾いて崩れかけているような感覚。
わけのわからない感情同士が激しく交差して
自分の中にもう一人の自分がいるような不快な感覚だった。
酒を浴びるように飲み、
まとまらない頭でボーッと空を眺めるしかできない
【 私は でくのぼう 】
……カイトの気持ち……
父ちゃんは、僕のことが嫌いになったのかなー 僕は、父ちゃんを選んでここへやってきたんだよ、、、
神様がいうには、僕は人に愛を気づかせてあげる不思議な力を持ってるんだから
それを、ぜーんぶ父ちゃんにあげる。
僕が神様からいろんな物取り上げられても、全部父ちゃんにあげるよ
だから父ちゃん、僕のことで苦しまないで 僕こんなに笑顔でいれるよ
僕は、いっぱい泣くけど 怒ることがない特徴で生まれたみたいだから、何をされても決して人を憎んだりしないよ。
父ちゃんが苦しまないように、いっぱい笑う。
だから父ちゃん、、、、
言葉が使えないから、僕はいつもへらへらしてる。
それから僕と父ちゃんは、一緒にいる時間がどんどん減っていった。
父ちゃんは、お酒を飲みにいくか、好きな釣りやバイクに乗って僕とは過ごしたくない様子だっだ。
トントントン、ドスン!
トントン ドスン!
あっ父ちゃんの足音だ!!
僕はワクワクして満面の笑顔になった。
そして父ちゃんに笑顔で手を振った(実際は触れてないけど、布団にポイの遊びしてほしくて抱っこをせがむポーズを一生懸命したんだ)。
・・・・・・
父ちゃんは、僕の前を通り過ぎて、どこかに行っちゃった。
平気さ、僕は、人を憎むことをできないように、神様が作ってくれたから。
父ちゃんをまっていようーっと!!
よし母さんと遊ぼうかなー。
でも母さんは僕のせいですごく疲れて、うとうとしてる。
僕は、病気のせいなのか、神様がそうしたのかわからまいけど、結構同じ遊びを繰り返し繰り返し遊べるんだ。だから寂しくないし大丈夫だよ。
僕の脳は少し特別で、父ちゃんいかないでよーって後追いをしなくて済むんだ
それがどういうことかというと、皆はしてほしいことがあったとするでしょ?
例えば、父ちゃん遊んでよーって、せがむでしょ
そしたら、お願いを聞いてくれるまで、父ちゃん父ちゃんってなると思うんだ。
でも僕は、そうならなくて済むんだ。
それが夜になろうが、明日になろうがずーっと待てるんだよ。
その間思い出して泣いたりしないんだ。
時々うまくできなくて、父ちゃんーって泣いちゃうけど、うまくいってるときはいつまでも待てるんだよ。
だから僕は何時間たったあとでも、何日経ったあとでも遊びたかったけど、遊べなかった
【途中のシーンから、続きを始めるように、いつも笑顔でいられるんだ。】
だからみんなを悲しませなくて済むんだ。
この力は特別だって神様が言ってたから、大好きな人を絶対に悲しませずに済む。
一話でも言ったけど、神様が与えてくれた 人を憎むことを知らないカイト って、気に入ってるんだ。
誰であっても僕はみーんな大好きなんだ
それにしても 父ちゃんどこ行ったんだろう、、、
父ちゃんは、飲んだくれることと、遊びまくって嫌な気持ちを晴らすことにしたみたいだ
……当時の父親の本心……
釣船の上で海を見れば気分が晴れて、少しは気持ちが楽になれるだろうか、、、
バイクで出かければ、何か気持ちがスッキリするだろうか、、、
いろいろなことをゆっくり考えたいと、自分の行動に意味づけをして、育児から一時だけでも離れてみたかった。
これでは、行方不明の娘たちのことを寝ても覚めても思い続けて苦しんだ時と同じではないか、、
いっそのこと酒ばかり飲んで、遊び呆けてみよう。
それが本心だった。
卑怯な自分の姿に真っ向から立ち向かう勇気など、私にはなかった。
つづく
みんなに伝えたいことはね、
おにいちゃん、おねえちゃん、そして大人になると忘れちゃったり、なくなっちゃうものがあるよ。
とても大切なもので、大人になってそれが大切だってわかって、みんな探して回るんだ。
僕はそれがなくならないまま成長するんだ。
少しづつ、少しづつだけど、せいちょうするよ。
言葉も、たちあがる足も、持っていないけど
これから起きる奇跡的なできごとや、楽しい話、つらい話の中で、伝えたいのは……
【僕の目線、思うこと、感じてることは 障害があるからじゃなくて、元気な子どもたちも同じなんだよ】
ってこと。
註釈
この頃のカイトの状態
- 発作だと確信できるものはなかった
- よく笑うが突然真顔になる
- 真顔になって5~10秒ほどたつとケラケラ笑う
- 笑うと同時に一気にヨダレが沢山出る
- ②と③と④が発作だと分かったのはこれから7年後、ごく最近
- 仰向けから寝返りが下手くそ
- 途中で下敷きになった手がうまく抜けずに泣く
- 手の力がとても弱い
- お座りは自力でできない
- 座らせるとグラグラして倒れる(うまく座っていられる時もある)
- 寝返りが成功しても体全体がふにゃふにゃ
この記事を書いた人
小菊
昭和44年生まれ54歳。妻は昭和63年生まれの35歳。重心児の息子は平成27年生まれの8歳(小3)。息子は妻の連れ子で、息子が生後半年の頃に再婚し親子になる。息子の傷病名は、ウエスト症候群、重度発達障害、自閉症。3年前より、息子は入居施設で暮らす。コラムでは、「息子はきっと、こんなことを考えているんじゃないか」と感じてきた内容を、息子の視点からのストーリーとして掲載。
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